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早くもBook of the Yearか 「漢字の構造 落合淳思」

「漢字の構造 落合淳思」が面白い。
早くもBook of the Yearにしたいくらいの気持ちである。
漢字の構造.jpg

一昨年だったか、日本漢字学会が立ち上がり、初回から会員になる程
漢字が趣味でいろいろ本を読んでいるが、この本は今までとは別格。

漢字の字源を解説する本や漢和辞典はいろいろなバリエーションがあるが、
定説の固まっていない文字も多く、どの説がどのくらい正しくて、
どのくらい怪しいのか、それを吟味するエビデンスはどれなのか、
明示されていない本がほとんどである。

白川静は大好きな漢字学者であり、著作も結構読んでいる方であるが、
その漢字の字源の説は説得力があるものが多いが、客観的な証拠がどの程度あり、
どの辺から推測の説となっているのか、正直眉唾の話題も多かった。

例えば有名な「口」は祭祀の時の祝詞を入れる箱、「サイ」であるとした説。
兄、祝、告、害などの一連の文字をその「サイ」を通して解釈すると文字発展の歴史や
古代中国の習俗をダイナミックに感じることができ、非常に魅力的な説である。

しかし、白川静は口をほとんど「サイ」として解釈したため、本当に「くち」として
表現している文字はどう区別してどう解釈しているのか述べていない。
例えば叫、吸、呼などは当然「くちへん」の文字であるから、
「くち」として解釈してよいはずであるが、
古代中国での甲骨文字や金文ではどう表現されていたのか、
その頃には文字として成立していたのか、その辺は解説してくれていない。

漫然とそうした疑問を抱えていたが、漢字の魅力を古代の人間の生活を想像しながら
白川説を読むと、それ自体はとても楽しい時間であった。

そんな中の今回読んだ「漢字の構造」である。
落合淳思は2014年に出版された「漢字の成り立ち」以降、
数冊の著作を拝見していたが、「漢字の成り立ち」の段階で、
説文解字や藤堂明保、白川静の大御所の説を
冷静にバイアスの無いように分析する姿勢が見て取れた。
今後の研究の進展に期待をしていたところであったが、
それが、「漢字の構造」でその一部が開陳された感じである。

古代の説文解字から現代にかけて漢字の字源を示した著作者10人を比較対象とし、
客観的に分析しようとした自身の説と、比較対象説のエビデンスとの矛盾点を
端的にわかりやすく解説している。
比較対象の10著作者は許慎、加藤常賢、藤堂明保、白川静、赤塚忠、鎌田正、
阿辻哲次、谷衍奎、季旭昇、李学勤。
私が個人的に大好きな阿辻哲次も比較対象に据えられている。著作の中では結構
エビデンスとの矛盾点があり、字源解釈の誤りを指摘されている。

漢字を「殷」「東周」「西周」「秦」「隷書」「楷書」と時代に区分し、
どのような変化をして今の楷書に至るか図解しているところが新しく、わかりやすい。
時代とともに使われなくなった「亡失字」などの存在も考慮しながら、
その漢字の系譜を俯瞰できるようにしているところが説得力を増している。

解説の一例を紹介したいが、それは是非、著作を直接読んでいただきたい。
漢字ごとに短い章立てで解説しているので、とても読みやすい。
最初の凡例的な章さえ読んで把握すれば途中はどこから読んでもまったく問題ない。
今年はコロナの影響で巣ごもり時間が増え、読む本の質が問われるが、
本書はその眼鏡にかなうような内容である気がする。
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